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祇園にしむら
フードコラムニスト。
1952年大阪生まれ。大阪外国語大学 露西亜語学科中退。
関西の食雑誌「あまから手帖」の編集主幹を務めるかたわら、食関係の執筆、編集業務を中心に、プロデューサーとして活動。「関西の食ならこの男に聞け」と評判高く、テレビ、雑誌、新聞等のメディアにて発言多し。主な著書に、「スローフードな宿」(木楽舎)、「京料理、おあがりやす」(廣済堂出版)等。
また、「水野真紀の魔法のレストラン」(毎日放送)ではコメンテーターを務める。「スローフード・ジャパン」副会長。
 「暴言は吐くけど、料理は真面目にやってますよ」と話したのは、久しぶりに会った京都・祇園「祇園にしむら」のご主人・西村元秀さん。
 西村さんは京都出身だが、京都の料理屋での修業はまったく無し。東京の「吉兆」で経験を積んだのち、いきなり祇園、それも御茶屋さんが軒を並べる通りで店を開いた。
 関西の割烹で、もっとも重要視されるのは白身の魚である。それも鯛。瀬戸内の、いかに上質の鯛を仕入れるかが、勝負となっている。
 京都の有名な料理屋は、それぞれ独自のルートを開発し、他店より少しでもいい白身を仕入れようとする。
向村のトロと鯛
鯛寿司
 しかし、京都でのコネクションが一切なかった西村さんに残された道は、中央市場で購入すること。基本的には、プロ相手の商売である。料理人に対しては、一応門戸を開いている。白身は売ってくれる。だが、その質について云々することは許されない。
 最初は、上質の白身を売ってはくれない。そこで、西村さんはどういった行動に出たのであろう。開店当初は、父親の知り合いなどが尋ねてくれる。それはあくまで父親の客で、本人の腕にほれてやってくるのではない。しかし、お客が入ろうと入るまいに関わらず市場の魚屋で鯛を一定量買い続けた。
 それは魚屋にとってもありがたいことである。料理屋が予約の電話を受けるのと同じ効果がある。それを頼りに仕入れができる。商売人にとってこんなにありがたいことはないのだ。
 その熱意が少しずつ伝わっていったのか、魚屋のほうから「大将、今日のはエエで」とか声がかかるようになった。それを決定付けたのが、阪神・淡路大震災である。京都の料理屋から客足が遠のいた。それは市場にも大打撃を及ぼした。そのときでも西村さんは、魚屋でいつもと変わらぬ仕入れをしたのだ。これは大きな信頼につながり、そこからは確実に素晴らしい白身が入るようになった、という。  
「『祇園にしむら』の鯛は旨い」という評判が立ち始めた。
 関西の料理人にとって、白身の魚は彼らの生き死にを決定する要素の一つだ。
わさびと松茸の玉子とじ 玉葱・オクラ
「祇園にしむら」
京都市東山区祇園町南側570-160
075-525-2727